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Vol.11 キューピットは猫(ハワイラブストーリー)


Photo by Kuni Nakai     Written by Kojiro Sawa

カパフルにある日本食レストランで撮影の打ち合わせをしていた。

ちょっと甘めのミソスープを飲みかけた時、フィルが遅れて店にやってきた。

「いやいや遅れてごめん。道が混んでいて。」

いつもの彼の言い訳だった。

フィルはあるPR会社の社長だ。

人懐こい性格と、ハワイアンならではの優しい心をもつ男だった。

僕がハワイで一番信用している男でもあった。

打ち合わせは順調に終わり、僕は寄り道をせずにホテルへと戻った。

すると部屋の電話がなった。

フィルだった。

「さっきは、ゆっくりと話ができなかったから、今度の土曜日の夜時間とれるかい?よかったらうちで食事でもしないか?」

「スーザンの手料理が食べられるのかい?楽しみだな。適当な時間に行くよ。」

フィッシュマーケットで、フィルの家で飼っている猫のリリの大好物、マヒマヒの刺身を買って、

リカーショップでビールとオーストラリア産の白ワインを買った。

それからフィルの家があるカイルアへと向かった。

大きな門をくぐって、玄関に入るとリリが出迎えてくれた。

リリは、雑種ではあったが真っ白な毛並みが立派な猫だった。

とても賢く、フィルのように人懐っこかった。

「いらしっしゃい。」

スーザンが迎えてくれた。

日系人の彼女は、品のある美しい女性だった。

「おじゃまします。2年ぶりかね、スーザンと逢うのは?」

「そのくらい経つかしら。何年経っても相変わらずお若いわね。」

「それを言うならそっちの方だよ。」

僕等はお互いに笑顔を交わした。

リビングに案内されると、テーブルの上には豪華な食事が並べられていた。

僕は、スーザンにマヒマヒを渡した。

「これ、リリに。彼女の大好物だろ。」

「あら悪いわね。いつもリリにまで気を遣ってもらって。」

エプロンで手を拭きながらスーザンは言った。

「さあ、食べよう。自慢のワイフが作った自慢の手料理だ。」

フィルは得意げに言った。

「やめてくださいよ。恥ずかしいじゃない。」

スーザンは顔を真っ赤にしていた。

食事は申し分ないほど美味しかった。

楽しい話もつきなかった。

何を食べるかではなく、誰と食べるか、どこに居るかではなく誰と居るかという事が大事だと言うことを思わせてくれる、そんな2人だった。

お腹もいっぱいになった頃、フィルは、酔っ払ったのか、リビングのソファで寝てしまった。

「もう、仕方ないわね。」

「まあ、いつものことだよ。」

「そうね。」

スーザンは、ベッドルームからブランケットを持ってきて、フィルにそっとかけた。

そんな優しさも彼女の魅力のひとつだった。

「そうだわ。美味しい赤ワインがあるのだけど、飲まない? フィルには内緒よ。これ彼のお気に入りなの。」

スーザンはウインクしながら、まるで少女のような顔で言った。

「いいね。絶対言わないよ。」

僕等は、庭に出て飲むことにした。

立派な庭には大きなプルメリアの木があり、夜の貿易風に乗って甘い香りが庭中に漂っていた。

プールの水面には月と星の明かりがキラキラと反射していた。

空を見上げると、まるでプラネタリウムのような満天の星空だった。

僕は、フィルとスーザンの馴れ初めを知らなかった。

こんな素晴らしい夫婦の出逢いをどうしても知りたくなった。

「フィルとはどうやって知り合ったの?」

僕のいきなりの質問にスーザンは少し戸惑ったが、

「リリよ。」

「リリ?」

「そう、リリ。」

「どういう意味?」

「そうね、あれは15年位前かな。野良猫を助けるボランティアをやっていたの。街や住宅街で見つけた捨て猫を拾って施設に預けて、飼い主を見つけるの。1ヶ月見つからないと、猫たちは殺されてしまうから、飼い主がみつからないとボランティアの人たちが、自分たちの家に連れて帰ることは当たり前だった。だから、何匹も飼っている友人もいたわ。」

スーザンはワイングラスを傾けながら、会話を続けた。

「実は、フィルもそのボランティアの一員だったの。ちょうど今の会社を立ち上げた頃で、週末になると参加していたわ。ある日、ハワイ大学のキャンパスに子猫がいるという通報が入って見に行ったの。それがリリだったの。それから施設に連れて行ったのだけど、結局飼い主が見つからなくてね。私もその時2匹飼っていたし迷っていたの。でもリリの顔をみているとなんだか可愛そうになって。」

「他には引き取ってくれる人いなかったの?」

「ええ。もう、気づいていたと思うけど、あの子の両目の色が違うでしょ。左目がブルーで、右目がグリーン。」

「そういえばそうだね。それがどうかしたの?」

「両目の色が違う子は、生まれつき耳が聞こえないのよ。」

「そうなんだ。」

「だから、誰も貰いたがらなかったのよ。そうしたら、フィルが飼うと言ってくれたの。あの人もすでに3匹飼っていて正直それどころではなかったはずなのに。それに会社を立ち上げたばっかりで大変な時期だったの。なんて心の優しい人なのだろうと思ったわ。それからフィルと話すようになり、お互いに惹かれあって今に至るのよ。だから、リリが私たちのキューピット。リリは生まれつき耳が聞こえないから、本人はそれを不自由だと思ってないみたい。私たちは子宝に恵まれなかったからリリは私たちの子ども同然。」

リビングではソファに横たわるフィルの大きなお腹の上でリリも一緒になって寝ていた。

それを見つめるスーザンの顔がとても幸せそうだった。

「なんだか、素敵な出逢いだね。」

「ええ。リリには感謝しているわ。」

スーザンは残りのワインを僕に注いだ。

僕はカイルアの街の上に光り輝く満月をみつめた。

すると同時に、

「あ、流れ星!」

スーザンが驚いたように言った。

「なんだか、いいことありそうね。」

「ああ。」
僕はいつまでも、この“家族”が幸せであって欲しいと心から願った。

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