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Vol.12 赤いムームーを脱ぐ時(ハワイラブストーリー)


Photo by Kuni Nakai     Written by Kojiro Sawa

10日間滞在したホノルルを後にして、ハワイ島、ヒロ空港に到着した。

活発に活動中のボルケーの写真を撮るため、ハワイ島には4日間滞在する予定だった。

その間に、いくつかのレストランとショップを取材しなくてはならなかった。

バゲージクレイムに向かう小さなエスカレーターを降りようとしたその時、突然スピーカーからハッピーバースデーの曲が流れてきた。

何が起こったのか一瞬わからなかったが、それに気が付くまでには時間は掛からなかった。エスカレーターの下では、

勤務中にも関わらず、たくさんのレイを首に掛けたひとりの女性スタッフと彼女を祝うスタッフたちの姿があった。

乗客たちも足を止めて、一緒に彼女のバースデーを祝っていた。

小さな町の小さな空港ならではのとても温かい時間だった。

空港から車で5分のところに滞在するホテルはあった。

部屋の窓からはヒロ湾とその向こうにはマウナケアが聳え立つ姿を一望できた。

申し分の無い景色だ。

雨の多いヒロだが、滞在中は一度も雨には降られることはなかった。

この日は、2軒のレストラン取材をすることになっていた。

1軒目は、ホテルの近くにある老舗のレストラン。

ここの売りは巨大なオムレツとパンケーキ。

24時間オープンとあって、いつも多くの客で賑わっていた。

マネージャーのエレナを呼び出してもらい、早速取材を開始した。

エレナはとても陽気で親切な素敵なハワイアンの女性だった。

ハワイでの取材の楽しみのひとつに、スタッフとの楽しい会話があった。

名物のオムレツとパンケーキの写真、外観、内観、スタッフの写真を撮り、撮影は無事終了。

「よかったら、召し上がっていって。」

エレナが言った。

ビールも勧めてきたが、車で来ていることを告げると、彼女はそんなこと気にしなくても、と一笑した。

もう1軒取材があると告げたら、ようやく諦めた様子だった。

ウエイトレスが2人分のコーラーを運んで来てくれた。

ここのウエイトレスは赤い生地に白いプルメリアが描かれたムームーを着ていた。

運んできてくれた女性は、60代位の女性だった。

綺麗な白い髪は後ろでしっかりと束ねられ、手には真っ赤なマニュキュア、品のあるメイクで、とても魅力的な女性だった。

「ありがとう。」

と告げると、

「日本から来たの?」

と聞かれ、

「そうです。」

と答えた。

彼女の祖母が広島県出身だということを教えてくれた。

この店にはもう30年以上働いているという。

僕等は2人でも多い巨大なオムレツとパンケーキを20分もしないうちに平らげた。

お腹がすいていたせいもあったが、空港での出来事や、ここでのスタッフとの温かい触れ合いが気持ちを豊かにしてくれていたのは確かだった。

エレナにお礼を言い、滞在中にまた遊びに来ることを約束して店を出た。

次の店までは、車で2時間ほど走らせなくてはならなかった。

僕は、ハンドルを握りながら、さっきのウエイトレスのことを考えていた。

何故だかわからなかったが、彼女のことがとても気になっていた。

微笑む瞳の向こうにどこか寂しさを感じたからかもしれない。

翌日はボルケーの撮影だった。

夜のボルケーノを撮る予定だったので、夕方前にホテルを出た。

キラウエアについたのは16時過ぎだった。

多くの観光客の車で、車を停めるスペースを見つけるのが困難だった。

入り口から数百メートル離れたところにようやく停めることができた。

撮影をしながら、足場の悪い溶岩の上をひたすら歩く。だんだんと陽も落ちてきて辺りが暗くなってきた。

真っ赤に流れる地球の息吹を感じながら、撮影は順調に進んだ。

車に戻ったのは22時を回っていた。

僕等は空腹だったが、もうこの時間はどこもやっていなかったので、ホテルに戻ることにした。運転中、あのウエイトレスのことをふと思い出した。

僕はカメラマンに、あの店に行こうと提案した。

店に到着したのは24時を回っていたにも関わらず店は満員だった。

若いウエイトレスに案内されたテーブルにつくとエレナが僕等に気がついてこっちにやって来た。

「こんな時間も働いているのだね?」

と僕が尋ねると

「今夜は特別な日になりそうだからね。」

とウインクしてみせた。

「特別な日?」

「そう。まぁいいわ。ビールでいい?もうこんな遅くに取材は無いでしょ?」

といたずら娘のような笑みを浮かべエレナは言った。

僕はあのウエイトレスを探した。

すると彼女がビールを持ってこちらにやって来た。

耳には黄色いプルメリアの花をつけていた。

「あら、また逢えたわね。うれしいわ。今日は私の最後の勤務になるかもしれないから。」

”かもしれない”という言葉が少し気になったが、エレナが言っていたことがわかった。

「ところで名前を聞いていませんでしたね。」

僕等ビジネスカードを彼女に渡した。

「私の名前はハルミ。春に生まれたからだって、日本人のグランマが付けてくれたのよ。」

「素敵な名前ですね。ところで、どうしてお店を辞めてしまうのですか?」

「私がここで働き始めたのは30年前。その前はモデルをしていたのだけど、婚約を機に辞めたの。彼は海軍の兵隊で、婚約した次の日に海外に出兵したの。とても悲しかったわ。私たちは、この店で出逢ったの。お互いにこの店が大好きで、毎日のように通っていていたわ。彼もそうだった。そして、何度か顔を合わせるうちに、話をするようになり、お互いに惹かれ合って。とびきりのハンサムだったのよ。街中の女性に恨まれたわ。」

彼女は当時を思い出しながら笑みを浮かべて言った。

「ここが私たちの思い出の場所なのよ。彼が居なくなってから、私はどうしていいか分からなくなって。ある時から突然彼と連絡が取れなくなったの。いろいろな方法で彼を探したけど駄目だった。それから、どうしたら彼ともう一度逢えるかいろいろと悩んで、そして二人が出逢ったここで働くことを思いついたの。もしかしたら、いつの日か彼がまたここに来るかもしれないと思ってね。それまでずっとここで待ち続けようと。エレナに全てを話したら、彼女は快く私を迎えてくれたわ。それからもう30年も経ってしまって。だけど待ち続けてよかった。自分でも信じられないけど。」

「ということは、彼が現れたということ?」

「ええ。嘘のような話でしょ。あそこに座っているわ。」

彼女は奥のテーブルに目をやった。

「でもまだ、彼には声を掛けてないの。ドキドキしちゃって。」

彼女は少女に戻ったようだった。

「今日でこのムームーともお別れ。エレナには本当に感謝しているわ。ゆっくり楽しんでいってね。」

そう言って彼女は彼のテーブルへと歩いていった。

その後ろ姿は30年前の彼女のように思えた。

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