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Vol.6 恋人はプルメリア(ハワイラブストーリー)

Photo by Kuni Nakai     Written by Kojiro Sawa

僕は、オアフ島のダウンタウンの近くにある植物園に居た。

軽く20フィートはある、島で一番古いと言われているプルメリアの木の前で、インタビューをするこの植物園のオーナー、
トムを待っていた。

鼻先を漂う甘い香りが100年以上前の香りと変わらない香りだと思うと何だか信じられなかった。

約束の時間から10分ほどが過ぎると、日本製の赤錆びたピックアップトラックがやって来た。車からは背の高い、老人と言うには失礼な
ほど若々しい白人の男性が降りて来た。

トムだった。僕を見るなり、

「お前の後ろに立っているそのイエローのプルメリアは1860年にドイツのドクターによってメキシコからもってきたもなんだ。見事だろ?」

と自慢げに教えてくれた。

彼は、とりあえず園内を案内したいと言ってきた。

僕はピックアップトラックの助手席に乗った。

車に乗ると甘い香りが漂っていた。

バックミラーに掛けられていた白と黄色のプルメリアのレイの香りだった。

30分ほどかけて園内を一周した後、園内にある彼のオフィスに案内された。

そこでインタビューをさせてもらうことにした。

古いオフィスの壁一面には数々のプルメリアの写真が飾られていた。

なかにはモノクロのものもあった。

「何か冷たいものでも飲むかい?」

トムは年代物の小さな冷蔵庫を開けながら言った。

「ええ。」

僕はプルメリアの写真を見渡しながら答えた。

トムは大きなマグカップに冷えたグァバジュースを入れて持ってきてくれた。

「どうもありがとう」と告げると、トムはウインクをしながら微笑んだ。

40分ほどでインタビューは終わった。

するとトムは大きな両手をテーブルの上で広げて

「まだ時間はあるかい? もっとプルメリアを見てみないか?」

と尋ねてきた。

「もちろん。」

僕はうれしそうに答えた。

プルメリアは僕の一番好きな花だからだ。

10分ほど車を走らせた所でトムは車を停めた。

エンジンを止め、車を降りると、そこには真っ赤なプルメリアを満開に咲かせた木が並んでいた。

「1931年に初めてメキシコから赤いプルメリアがここハワイに運ばれて来たんだ。それらの子孫が今もこうしてここで立派に咲いているんだよ。ハワイの人たちが誰もが見とれ、誰もが香りに酔い、誰もがスケッチして、そして誰もがレイを作る花、それがプルメリア。俺はプルメリアの香りを嗅ぐ度に、60年代にホノルルエアポートでメインランドから遊びに来るアンティやアンクルを待っていた時の事を鮮明に思い出すんだ。あの時のレイの香りと一緒にね。今も当時と全く変わらぬ甘い香りだよ。人々はもうタイから送られてくるオーキッドのレイには飽きてきている。まずレイをかけてもらって最初にすることは、その香りを楽しむこと。だけどオーキッドには香りがない。人々は再びプルメリアを欲しがるようになってきた。今ではプルメリアこそがハワイの花そのものなんだ。バリ島にもたくさんのプルメリアがあるけど、色は白だけ。だけどハワイにはたくさんの色がある。何故だか分かるかい?」

トムは少し笑みをこぼしながら僕を見た。

僕には答えが分からなかった。

「それはとてもシンプルだ。“ヘイ、アンティ僕はこの色のプルメリアが好きなんだ”、“ヘイ、アンクルそのプルメリアの木、素晴らしいね。ちょっと分けてくれないか?”こんな感じで、昔からハワイの人たちはこの花をシェアし合っていたんだ。アロハの心だよ。」

僕はこの話に妙に納得した。

全てを受け入れ、全てを分け合うハワイの人々ならではのことだからだ。

夕空は燃えるようなオレンジ色から、深い紫色へと少しずつ無段階に変化を遂げていた。

トムは話を続けた。

「8年前に妻を亡くしてね。1人息子が居るのだが、やつももう2児の父親で、メインランドに引っ越してしまった。だから今はパールリッジにある小さなユニットに1人で生活している。

昔のように家族との大切な時間を過ごすファミリーは今のハワイでは減ってきている気がするよ。とても寂しいことだね。」

トムはプルメリアの話をしている時の顔とは裏腹に少し寂しげな表情をみせた。

「妻のアキは気品があり、人懐こく皆に好かれるようなとても素敵な女性で、まさにプルメリアのようだった。ある夏の日、ダウンタウンにある彼女が大好きだったアイスクリーム屋に2人で行った時のことを今でも時々思い出すことがあってね。彼女はいつものように列に向かって走り出し、そして列の後ろに居た老婆に話しかけたんだ。僕は一体何をしているのかと思ったよ。会ったこともない知らない人と突然話なんか。それが数分も経たないうちに、長年付き合っている親友かのようにお互いが笑い始めたんだ。彼女の才能だよ。望んでも出来ることじゃない。それがアキという女性だ。先立たれた時はしばらく何もする気になれなかった。そんな時、古くからの友人からここのオーナーにならないかって誘いがあってね。もともとプルメリアは大好きな花だったし、特に何もやることもなかったからひとつ返事でOKしたよ。今でも彼にはとても感謝している。大好きなプルメリアに毎日囲まれて生活させてもらっているのだからね。それに久しぶりに恋をしているんだ。まさかこの歳になってまた恋をするとは思っていなかったがね。今はこのプルメリアたちに恋しているんだ。」

トムは土の香りがして、素朴で実直な男性だった。

彼の横顔が夕日で輝いていた。

その横顔はとても幸せそうに見えた。

貿易風が贅沢な甘くて優しい香りを乗せて僕等の頬をなでた。

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