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Vol.7 やっぱりハワイがベスト(ハワイラブストーリー)

Photo by Kuni Nakai     Written by Kojiro Sawa

レストランやショップの取材時間の合間を縫ってブックストアに立ち寄るのが習慣になっていた。

あてもなく店内をぶらぶらと散策するのが好きだった。

僕はワードにあるブックストアにいた。

ファッション雑誌のコーナーに差し掛かった時、ある雑誌の表紙に目が留まった。

そこには見覚えのある女性が写っていた。

気になり、その雑誌を手に取った。

彼女を見て驚きが隠せなかったのと同時に、喜びがこみ上げてきた。

僕は雑誌をめくりながら4年前の夏を思い出した。

カメラマンとアロハマーケットプレイス内を歩いていると、あるお土産屋の女性店員が声をかけてきた。

「日本の方ですか?」

声の先には綺麗な黒くて長い髪のスレンダーな美女が立っていた。

「ええ。」

僕等は突然の問いかけに驚いたというよりも、正確には彼女の美しさに見惚れていた。

「取材ですか?」

「ええ。だけど何で分かったのですか?」

「だって立派なカメラをお持ちですもの。」

彼女はカメラマンに視線を向けながらこたえた。

「どうみてもツーリストって出で立ちではないわ。」

白い歯を見せながら愛くるしく微笑んだ。

僕とカメラマンは突然の出来事に戸惑っていた。

取材中によく声を掛けられるが、未だに慣れなかった。

きっとたくさんの機材とハワイには似つかわしいカバンを持ち歩いているせいだろう。

「ごめんなさい。少し急いでいるので。」

僕等は歩きだした。

ちょっと心苦しかったが次のアポの時間が迫っていた。

「ちょっと待ってください。ちょっと相談したいことが。」

彼女は真剣な様子だったが正直困った。

「携帯はお持ちですか?よかったら教えてください。今日こちらから必ずご連絡します。」

僕は早く行きたかったので名刺を渡した。

「何時頃ならご都合がいいですか?」

「20時過ぎならホテルに帰っていると思います。」

「ありがとうございます。」

彼女はとてもうれしそうに言った。

僕等は道に停めてある車に向かって早足で歩いた。

取材も終わり、ホテルに帰ったのは20時前だった。

電話が鳴るかもしれないと思ったが、シャワーを浴びることにした。

シャワーを浴び終え、冷蔵庫から冷えたビールを取り出した。

携帯電話を確認したが、着信がなかったので、そのままラナイに出て、真っ暗なワイキキの海を眺めながらビールを飲むことにした。

この時間が至福の時だった。

2本目のビールを取りに部屋へ入ろうとした時に、携帯電話が鳴った。

彼女からだった。

とにかく一度会って話がしたいというので、近くの日本食店で待ち合わせをした。

カメラマンにも連絡をとり、2人で待ち合わせ場所へと向かった。

彼女は時間通りにやって来た。

昼間とは違う落ち着いた雰囲気がまた一段と美しさを増していた。

「すみません、突然呼び出してしまって。」

「構わないですよ。夜はいつも暇を持て余していますから。」

そう言うと、彼女は安心した顔を見せた。

カウンター席に座り、お惣菜を何品か頼んだ。

お互いに簡単に自己紹介を済ませた。

彼女は日本人の母親と、スウェーデン人の父親を持ち、名前はベラといった。

僕は単刀直入に彼女の願いを聞いた。

すると彼女は少しうつむいたが、一息置いて話し出した。

「実は2年ほど連絡の取れない彼がいて。彼はカメラマンを目指していて、主に子どもたちを撮っていたの。彼は口癖のように、子どもは純粋で、目の輝きが違うってよく言っていたわ。彼の作品が大好きで、よく一緒に撮影に付き添ったりもして。私が子ども達を笑わせて、彼がその笑顔をよく撮っていたの。ダウンタウンとかで時々個展などをやっていたりしていたのだけど、そのうち、アメリカ本土で個展を開いて、それから世界中の子ども達を撮ってみたいって頻繁に言うようになって。ハワイはすごくいい所だけど、ニューヨークやロスみたいに刺激がないって言い始めて。その頃から、私と彼にずれが生じて。彼の回りの才能のある若い人たちが、可能性を求めてどんどんアメリカ本土に渡っていた時期でもあって、それを見て行きたくなったのもあったみたいで。でも決まってみんな数年後にはハワイに帰ってきてこう言うの。『ハワイがベスト』だってね。それでも彼は、自分は他の奴らとは違うと言い張って。何の連絡もなしに、ある日突然ハワイを旅立ったの。それからもう2年が経って。」

ベラは持ちかけた箸を置いて話を続けだ。

「そうしたら、先日友人がある雑誌で彼がインタビューされている記事を見つけて。どうやら今は子どもではなくて、モデルを撮る仕事をロスでしているみたいなの。ロスでは結構注目されているみたい。2年間彼の事を一度も忘れたことなんてないわ、今でもとても愛している。どうすれば彼に逢えるかずっと考えていたの。雑誌社に問い合わせれば彼の居場所が分かるかもしれないけど、ちょっと驚かせたくなって。私がモデルにになって雑誌に載れば彼に見てもらえるかなって。そしていつか彼が私を撮ってくれる機会ができるかもなんて、とても馬鹿げたことを考えてしまって。」

僕はカメラマンに目をやった。

彼も真剣に話を聞いている様子だった。

「実は来月有名雑誌モデルのオーデションあるの。それに思い切って出てみようかなと思っているのだけど、そのプロフィール写真を撮ってくれる人を探していて。顔写真だけではなくて、いろいろなカットを撮らなくてはならないの。恋人がカメラマンだったから、今まで他の人に撮ってもらうことを考えたことが無くて、どうしようと思っていたところ、あなた達をマーケットで見かけて、それで思わず声を掛けてしまったの。いい迷惑よね。」

僕はカメラマンの顔を見た。

長年一緒に働いている彼の顔を見るだけで、答えを聞く必要はなかった。

「僕等は明後日日本に帰らなくてはならなくて、明日の午後だったら、2時間ほど時間が取れますけど、それでもよかったら。」

ベラは飲んでいたグラスを置いて、うれしそうに僕等の手を取って何度もお礼を言った。

翌日は天候にも恵まれ、撮影も順調に終えることができた。

「本当にどうもありがとう。」

ベラは日本式に頭を下げてお礼を言った。

「彼に逢えるといいね。」

カメラマンがそう言うとベラは照れくさそうに頷いた。

そして、お互いの車へと戻った。

ベラは僕等にちょっと待ってと言って、車の後部座席から小さな袋を2つ取り出して、僕等2人に差し出した。

中身は小さな香水のビンだった。

「私はプルメリアが大好きで、いつもこの香水をつけているの。他にも、ホワイトジンジャーやピカケ、チューベローズなどいろいろ試したけど、これが一番好き。よかったら使ってみて。男性でも平気な香りよ。よかったらつけてみてね。」

僕等は香水を受取り、お礼を言って、次の取材先へと向かうことにした。

「絶対、有名になって、彼に逢うわ。2人にここまでやってもらったんだし。本当にどうもありがとう。」

ベラは大きく手を振りながら言った。

僕等も車の窓から大きく手を振った。

ベラは僕等が走り出してもずっと手を振っていた。

僕は、その本を買いブックストアを出た。

強い日差しがとても眩しかった。

数日後日本に帰り出社すると、デスクの上に1枚のハガキが置いてあった。ベラからだった。

裏にはベラと、夫である男性と双子の赤ちゃんが写っていた。

四人ともとても幸せそうだった。

追伸には、『来年の春に家族四人でハワイに戻ります。その時は、必ず遊びに来てね。やっぱりハワイがベスト! 』と書かれていた。

今朝つけたプルメリアの香水の甘い香りがほのかに鼻をかすめた。

その日が待ち遠しかった。

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